新電力は電力コスト削減の救済主になるのか?

 省エネプロフェッショナルの伊藤智教です。

 今日のテーマは、新電力は電力コスト削減の救済主になるのか否か?

 まず新電力の誕生した経緯から振り返ってみよう。

電力自由化の流れは、実は2000年から始まっている。しかし、既存の体制からの変化を電力会社に限らず好むものはいない。

しかし、エポックが出現した。東日本大震災である。

新電力は、3.11 により停止された原子力発電所の影響で、電気代が値上がりしたことで活性化した。

電気料金の値上がりと高止まりを何とかしようと考えて、国が電力自由化の流れを推進したのである。

つまり地域独占で守られて来た電力会社の料金体系に、競争原理を持ち込み「公正な競争が発生する環境」を作り出した。

「公正な競争が発生する環境」が出来たことで誕生を促したのが新電力と考えれば良い。

しかし、公正な競争による電力料金の値下げは、実は簡単ではない。

電気を物品のように考えて見よう。

製造者=発電会社、

卸問屋=送電会社、

小売店=電力小売会社とみることができる。

これまで、電力会社は発電・送電・小売を一貫して行う体制になっていたため、販売価格の改訂には

国の認可が必要である。しかし、電力料金は、コストを積上げて価格を決めてきた。

しかし、一般の物品はどうであろうか?

いくらにすれば消費者に購入して頂けるかを考え、販売価格から逆算して予定の原価になるように

創意工夫や生産革新を繰り返してきた。コスト積上げ方式とは明らかに異なる価格設定である。

こうした努力は、発電から小売までを一貫して行う電力会社では少なかったと考えられている。

そこで、発電のみを行う会社もこれまであったが、小売のみを行う会社があってもいいではないかとの考えから

登場してきたのが新電力(電力小売事業者)である。

新電力に切替えると安くなる理由

新電力は、一般企業や公共の発電所などと契約して一定の電力を購入するほか、余剰電力を市場(電力卸売市場)で調達して小売を行っている。

もちろん自前の発電所を持っている新電力もあるが、専用の送電網はごく僅かであり、実際には電力事業者が保有する送電網を借りて電気を届ける。

送電網の使用には託送料金が必要だから、購入した電気代+託送料が原価となる。これに販売費や管理費、人件費と事業継続のための利益が要る。

新電力は、販売する電気が無ければ事業が成立しない。また原価割れする価格で販売すれば、たちまち赤字になり、事業廃止に追い込まれる。

実は貴方が思っているほど安くはならない。しかし、それでも幾ばくか安くなるのは、コストを積上げて設定した料金ではないからだ。

つまり、どうやったら顧客に受け容れられる価格で提供できるかを、発電・仕入・販売・集金・管理の面で、徹底して智恵を出しているからだと言えるのではないか。

電気は簡単に貯蔵する事ができない。一般には大容量の蓄電池を使う必要があり、巨額の投資が必要である。

ゆえに、需要を読み間違えると廃棄するしかない。これが30分単位で需給をバランスさせる必要がある。

国の施策で、大手電力会社が保有する発電所から、一定量を卸売り取引所に提供する要請が出されているものの

そんなに簡単に放出するとは思えない。

このように考察してくると、新電力があるから電気代は下がり続けると思ってはいけない事が見えて来る。

先頃、関西電力の電気料金値下げがあった。(以下資源エネルギー庁 長官官房 総務課 調査広報室の発表を引用)

何故値下げが可能になったのかについて、国では以下のように説明をしている。

今回の値下げは、福井県の高浜原子力発電所3号機・4号機の運転再開によって実現しました。

関西電力はもともと、大手電力会社の中でもっとも原子力発電(原発)への依存度が高い

「電源構成(火力、水力、原子力など「電源」の種類の組み合わせ)」でした。そのため、

東日本大震災後に原発が停止して以来、原発の代わりに「ベースロード電源(一定量の電力を

安定的に低コストで作り出すことのできる電源)」となっていた石炭火力発電所など、火力発電に

かかる燃料費などのコストが増えていました。2度の値上げを行った理由もそこにあったのです。

2017年6月に高浜原発4号機が、7月に3号機が本格運転を開始したことで、一部の火力発電所の

稼動を減らすことにより、燃料費が削減できることになりました。

さらに経営の効率化も進めたことで、合計877億円のコスト削減分を値下げの原資にあてることができました。

(引用終わり)

この発表から見えることは、原資がなければ値下げはできないこと。

そして

公正な競争ができる環境を整備したことで、関西電力の市場に新電力が入り

原価積上げでの料金体系ではなく、経営努力が必要で、値下げ原資が見込めた段階で

直ちに広報して顧客のつなぎ留めをする営業方針に転換されたことである、と私は感じた。

急には転換しないが、公正な競争ができる環境を整えたことで、大手電力会社も安穏としていられなくなり

智恵を絞って経営をするようになったこと、顧客を見るようになったことが良かった、と私は思う。

しかし、それでも再エネ賦課金は上昇する

再生可能エネルギー(太陽光・太陽熱・地熱・風力・バイオマスなど自然エネルギーで発電した電気)の全量買い取り制度

により、電力会社に買取り義務が課されている。この買い取るための原資を、電気を使う人全てが使用量に応じて負担する

事となっている。毎年毎年賦課金の単価は上昇しており、制度開始から5年で10倍を越えた。

再エネの年間買取り総額は2兆円を越えており、まもなく4兆円になると予測される。

つまり、電力市場に競争相手を参入させて、僅かばかりの単価の引き下げができても、その引き下げメリットを全部再エネ賦課金が帳消しされる構図にある。

もちろん、新電力の市場参入により電力単価は低減して来たが、再エネ賦課金の上昇が余りにも大きくなっている。

大変幸運なことに、石油価格下洛の影響で、燃料調整費がマイナスになったことでこうした動きに気づかずに過ぎている人も多い。

結論は、新電力だけでは電気代削減に限界があると考える。

この続きはまた明日